おうおう……また随分と飲んだようじゃのう
手掛けた船が無事に竣工し、引き渡しをもって大規模プロジェクトが幕を閉じた今日。ガレーラカンパニー本社にある敷地では、打ち上げ会が行われていた。
「いやぁしかし、仕様変更で納期に間に合わないんじゃねえかと思ったけどよ……流石は職長たちだよな!」
「あぁ、職長たちがいなかったら今頃どうなってたか……」
「ク~~!アイスバーグさんの技術力も凄かったよなぁ!」
敷地内に肉の香ばしい匂いが漂うなか、飲み物を片手にした社員たちはそれぞれ話に花を咲かせている。その内容は仕事の話であったり、あるいはなんてことのない世間話であったり。笑いと乾杯の音は何度も響き渡り、今回の立役者の一人であるカクも同じように何度も杯を交わすものの、立役者な上に役職者であるためか声を掛ける者が多かった。これには酒に耐性のある彼も多少は酒が回ってしまい、泥酔する前にとさりげなく輪の中から離脱すると、端の方でグデングデンに酔っぱらってテーブルに突っ伏している同僚に気付いた。
「ううん……」
茹蛸のように赤い顔や、辺りに置かれた大量のグラスたち。その量から察するに相当飲んだのだと分かるが、それにしたって飲みすぎだ。カクは隣に座り肩を揺すって声を掛けた。
「アネッタ。……アネッタ、……アネ」
数度の呼びかけ。しかし返事はない。それどころか完全に熟睡しているのか、僅かに言葉にもなっていない声が漏れ、揺すっていた手を離してふんわりとした癖毛を触って、指に絡めていると突然跳ね起きるように頭が上がり、真っ赤な顔がへらへらと笑った。
「あぁ~カクだぁ~~!」
ああ、こりゃだめだ、とカク。
完全に酔っぱらっている。ふにゃふにゃへらへらと笑う彼女には芯なんて入っていなさそうで、両手を広げて抱き着こうとする様子に、指一本で額をツンと押すとぐんにゃりと頭が後ろに逸れる。……ああ、これだから酔っ払いは。
カクは息を吐きながら尋ねる。
「機嫌がいいのう」
「だって打ち上げだもーん」
「そりゃそうじゃが、いくらなんでも飲みすぎじゃぞ」
「だあって前に貰ったものは全部飲めってぇ…」
「誰が」
「んー……ふふ」
答えもせず、笑いながら鼻先から顎下までをツイと引っ張るようなサイン。そのハンドサインじみた動きを見るに、恐らくはジャブラのことだろう。泥酔しても機密情報を出さないのは良い事だが……それにしたってジャブラのやつ、余計なことを。
適当に辺りを見回して、水の入ったグラスと、それから一口サイズに切り分けたものを串に刺した水水肉が並ぶ皿を引き寄せる。それは彼女には水を、それから彼女の介抱により追加の酒を諦めた自分には肉を向けたつもりだっただが……彼女は肉を引き寄せる。なんて厚かましさだ。
「おい、お前は水じゃぞ」
「エェ~」
「エェじゃない、ちゃんと飲まんか」
「でもお肉も食べたい」
「じゃあせめて水を飲んでからにしろ」
明日酷いことになるぞ。泣いてもワシャ知らんぞ。そう言うと、流石に念押されたことで怖くなったのか「チェイサーはお酒が一番だって聞いたのになぁ」とアネッタ。唇を尖らせる様子に本当にろくなことを学ばんなとカクは軽く頭を叩くが、どうにもこうにも惚れた弱みという奴は厄介で、彼女がこうも好き勝手にしているというのに見捨て、酒を飲み歩く事が出来ない。……何が楽しくて、酔っ払いの介抱をしているんだか。
ゴクゴクグビグビと喉を鳴らして水を飲み干すアネッタ。チェイサーを飲んだところで急激に酔いが冷める事はないものの、多少は落ち着いたらしい。頭をふわふわと揺らしたままの彼女は水水肉に手をつけて肉を一つ頬張ると、何か思い出したように見守るカクの口元へと向けてへにゃへにゃと笑いながら呟いた。
「あーん」
「ん」
「えへ……美味しい?」
「そうじゃな」
……まぁ、たまにはこうしてゆっくりするのも悪くはないか。ムグムグモグモグと幸せそうに頬張る彼女を見るのは悪くないし、こうやって餌付けされ、ついでに可愛い可愛いと帽子を剥ぎ取られて頭を撫でられるのも心地が良い。何より、今こうして彼女の視線を独り占めをしている事がなんだか嬉しいと、そう思った。