あ、が……ッ
振り返る間もなく鋭い重衝撃が腹部を突き破り、息が詰まる。突き出たものを見るに、刺さっているのは刀か。刀を起点に腹が焼けるように熱く、冷静に息を吸い込んだつもりでも肺までは届かずに息苦しさが喉を締める。
忽ち視界には霞がかかり、体勢を崩してよろめくとツウと冷や汗が顎まで伝い落ちる。……一体何が起こったのだ。カクは震える手を何とか動かして突き出た刃に触れてみるものの、かえって痛みが強まるだけ。腹部から灼熱が広がり朦朧とし始める中、一滴、また一滴と、赤黒い血が落ちる音だけがやけに大きく響くようだった。
「……ッが、…ッぅ、…ぐ………ッ」
それでも、彼女を守らねばならないという思いだけが彼を支えていた。
だが、想いに反して脚は言う事を聞かず地面に倒れ込む。それにより突き刺さっていた刀は押し返されて、衝撃と共に抜け落ちたが細かな石を敷き詰めた庭ではそれが大きく鳴り響く。
「ッカク!!!」
虚を衝かれ、理解も追いつかずに叫ぶアネッタの顔が歪んでいる。カクは視界に入れながらも、今はそれよりも奥に見えるそれに因果応報かと乾いた笑いを堪える事なんて出来やしなかった。
「わはは……、そうか……、……恨んだ相手は…わしじゃったか……」
彼女の背後には、鴛鴦(オシドリ)と呼ばれる二羽並ぶ妖鳥の姿があった。鴛鴦とは、本来鴨に似た姿の筈。それが今は黒い靄を纏い、黒炎の中で燃え盛る火の鳥のように見える。ユラユラと揺らめく黒い姿に、憎悪が混じる厳しい眼差し。打ち鳴らす翼は不気味な威圧感を放ち、アネッタはその存在に気付くや否や振り返るが、いまは恐怖よりも守りたい気持ちが勝る。
いまだ足の自由がきかずに、力の入らない足。この状況で一体なにが出来るというのだろう。…分からない。でも、それでも彼を守らなければいけない。自分が彼を守らなければならないのだ。
「来ないで!!」
ご都合展開的な奇跡も起きず、力の入らない足のまま、辺りにある砂利を力いっぱいに投げつける。しかし、所詮は非力な女の一手だ。砂利は手投げ投網のように広がって、打撃とは成らず。代わりに得た一瞬の隙にブルブルと情けなく震える足のまま、腕の力を頼りににじり寄ると、血が滲む腹部に酷く狼狽えた。
「っだめ、だめだめだめ……だめ、絶対だめ…っ!やだ、カク、……カク…ッ!!」
触れた手は温かい。それなのに顔は青白く、呻く声が痛々しく落ちる。それを見ていれば、具合が宜しく無い事は、その界隈に明るく無い少女でもよく分かる。だが、肝心の助けを呼ぶ術がない。携帯はおろか電話も無い世界だ。辺りの妖たちも息絶えてしまえば、打つ手は無く、アネッタは両手を広げながら震える声で言った。
「か、カクに……手を出さないで……、……っか、…っか、カクも、今の内に」
言い終える前に、言葉が途切れて視線が落ちる。それは他でもないカクが彼女の袖を引いたからであったが、二匹の鴛鴦からすればこれほど面白くない事は無い。鴛鴦たちは強情な奴だとギャアギャア怒り狂い翼を打ち鳴らしたが、カクはそれに構わず、静かに言った。
「いいか……よく聞きなさい。……あ゛の、鳥、は、鴛鴦という妖じゃが……っはぁ、…、お前だけには、手を、出さない……。……じゃから、お前だけでも、……屋敷の中に隠れ、ジャブラが良いと…ッはぁ……言うまで、は、出てくるんじゃないぞ……」
「何…言って……」
「わはは……奴らの狙いは、お前ではなくわしじゃ……何もお前が盾になるようなことでは」
そこまで言い、アネッタが憤然と言葉を遮った。
「そんなこと出来るわけないじゃない…!!馬鹿なこと言わないでよ!」
その言葉は、今までにないほどに怒り、震えていたと思う。
帰るの!これも全部終わって、私とあなたは作った冷や汁をいっしょに食べるの!それは彼を鼓舞するためのように見えて、自身への鼓舞でもあったように思う。アネッタは震える足に鞭打って、火事場の馬鹿力ともいえる力で立ちあがる。その瞳は何時になく血走り瞳孔が開き、呼吸がひときわ荒くなる。……だが、歩けもしない彼女が立ちあがったところで何になる。いま彼女がやっている事はちいさな子供が駄々をこねているのと同じ。それを良しとは出来ない。
カクは奥歯が軋むほど歯を食いしばり、細い手首を掴んで喉が裂けそうな程の声をもってして叫んだ。
「黙れ!!これはお願いじゃあない、命令じゃ!」
「ッだ、だって!」
「その状態で何をすると言うんじゃ!乞食の虱か?!馬鹿馬鹿しい…!お前のような女は丸太ん坊(役立たず)は、わしの言う事を聞いておったらええんじゃ!」
当然、それが彼の本心ではないとは理解している。
しかし、息絶えるかもしれない彼を置いて逃げる事が出来るわけが無い。
新世代に生きる十七歳には荷が重すぎる選択肢。到底決断も出来ずに立ち尽くすアネッタを見ると、矢張り彼女に何かを任せる事は出来ない。その間、ギャアギャアと鳴き喚き、翼を打ち鳴らすたびに起こす微風で転がり届いた酒呑み瓢箪を目にしたカクは、触れた指先から伝わる瓢箪の中でとぷんと揺れる液体と、厚い層の奥にある妖力に双眼を細めた。
感じ取ったものは、きっと彼女の助けになる筈だ。
「……アネッタ、……お前はちゃんと逃げるんじゃぞ」
「待って、カク、一体何を……」
「……ッフウ……残りある妖力を分け与えてやるんじゃから、感謝せえよ」
最後に、独り言ちるように呟いた言葉。その間も彼女の細腕は掴んだままで、青白い光が彼の手を包み、指先から酒へと乗り移る。残りある妖力は全てこの酒呑瓢箪へ。そうして妖力を注ぎ込む事で中を満たすと、押し出されるようにポンと先の差し込み封が弾け、役目を引き継ぎ瓢箪口から姿を現した酒呑童子が口角を吊り上げた。
「ギャハハ…!随分と面白ぇことになってるじゃねぇか」
「……まさかそれに封じられておるとは…思わ、んかったが、…っはぁ……ちょうど良かったのう……、……ジャブラ、…話は聞いておったな」
カクの言葉から察するに、ジャブラもまた被害者のひとりであったらしい。ずるりと力を失ったようにカクの手が離れたあと、引き継ぐようにジャブラが細腕を掴む。その手は到底振り払えそうにないほど力強く、アネッタが震える声でカクを指しても変わらない。
「ジャブラ!カクが、…ッ、カクを此処に残すわけにはいかないの!!」
「分ァってるよ、クソガキ」
言いながら、此方に向けて今にも向かって来そうな鴛鴦たちを睨んだジャブラはアネッタの腰を抱く。「しっかり捕まってろよ」そう呟く声は静かで数秒ほどの間を開けて鴛鴦たちが飛び出すと、ジャブラはカクの身体も肩に抱えて飛び上がる。
その高さ、五メートルほど。あまりの高さに小脇に抱えられたアネッタも言葉を詰まらせるが、それよりも先に口を開けたのはカクだ。彼は異を唱えて怒鳴った。
「おい、ジャブラ!わしを離せ!わしの話を聞いとらんかったのか!」
これでは彼女までも狙われてしまうではないか。さっさと捨ておけばよいものを!しかし、ジャブラは「ぎゃあぎゃあうるせぇなぁ!」と怒鳴り散らすと、此方に向けて突っ込んでくる鴛鴦を躱して、瓦が並ぶ屋根に降りて怒鳴り合った。
「封を解いて助けたのはわしじゃぞ!」
「おうおう、ありがとよ!じゃあおれが礼に助けてやるって言ってんだよ!」
「それが必要ないと言うとるんじゃ!」
未だ血は流れ続け、封印を解いたことで妖力切れも起こしているだろうに、カクは青白い顔のまま怒鳴りつける。その声は震え、今にも倒れそうなほど弱々しいが、肩に担がれ、もう片方の腕でアネッタを抱えるジャブラにとっては、これ以上ないほど鬱陶しい。
「いいからお前は寝とけって言ってんだ狼牙!」
少々手荒いが、喚く彼を抱えたままでは到底戦えやしない。つまるところ、いまのカクは邪魔なのだ。ジャブラは苛立ちを抑えきれず、舌打ちと共に彼を抱える腕に圧をかける。それにより傷口に負荷がかかったカクは激痛から息を詰まらせて、顔を歪めて呻くが痛みを耐えきれなかった。
ついに力なく頭を垂らすと、その様子に、ジャブラはようやく腕の力を緩めるともう一度彼の身体を抱え直し、難儀なものだと息を吐いた。……おそらくカクは気絶寸前の状態だった筈だ。薄れゆく意識の中で、それでもカクはアネッタを守ろうと必死に抗っていたのかもしれない。ジャブラからすれば馬鹿馬鹿しい事この上ない限りだが、それでもカクへの借りは返しきれていない。アネッタも、それを不安そうに見守るほかないが、ジャブラの背後から手招くように風が流れ、その先で鴛鴦が睨むと叫んだ。
「ジャブラ!後ろから来てる!」
声を合図にビュウと風を切るように向かってくるそれは、まるで弦を放たれたばかりの弓矢のようだ。ジャブラは返答よりも先に踏みつけた瓦を向かい来る鴛鴦に向けてけり飛ばして、ついでに飛び上がった身を躱す。…が、飛び上がって避けるばかりでは単純すぎるか。飛び上がった先を狙ってもう一羽が大きく翼を打ち鳴らして羽を射ると、ジャブラは肺を大きく膨らませるよう息を吸いあげて、酒気を纏って威力を高めた火炎を吹きすべてを焼き払った。
その火炎は大きく、肌が焼けるように熱い。
「……へへ、烏天狗の妖力入りだ。これで焼き鳥になったか」
そう言ってジャブラは得意げに笑うが、焼き払ったのは向けられた翼だけ。メラメラと燃える炎を遮り轟々と風が吹くと、彼を嘲笑う鴛鴦たちが甲高い声で鳴き喚いた。
「おいおい、なんつー妖だよ……」
「そんな……」
吹き荒れる風に、影を落とす辺り一帯。頭上を鉛色の雲が覆う様子はさながら天候を操っているようで、ジャブラは舌を打つと、適当な場所にアネッタとカクを下ろして吐き捨てた。
「……いいか、アネッタよ。その馬鹿が言うように、どうやらお前には危害を加えるつもりはねぇらしい。だからお前はカクを抱えておれの後ろにいろ、お前が抱いてりゃ危害は加えられねぇはずだ」
「でも、ジャブラは」
「おれはアイツらを仕留める。……冷や汁のつまみに焼き鳥なんて最高だろ」
言葉の割に、静かな声。その視線は鴛鴦を睨みつけており、ゴウと風を切り飛び込んでくる二匹に向けて腕を振るうと鳥たちは二手に分かれて身を翻すが、鋭くなる爪先が翼の一部を捕らえて羽を捥ぐ。それは決して決定打にはならないが、ようやく掴んだ感触だ。ジャブラは、痛みか恨みかも分別できぬ声を上げてもう一度迫りくる二羽に向けて火炎を吐き出した。
その間、アネッタはカクの傍で動きもしなくなった体を抱きしめる。しかし、先ほどまで温かった筈の手は冷えて、触れあった肌も同じようにひんやりと冷たい。……明らかに、状況は悪化を辿っている。頭の中で死の文字が過ぎるが、いま此処でやるべき事は彼がこの闘いでさらなる追撃を受けぬようにすることだろう。アネッタは屋敷に向けて今ある力を振り絞って彼の身体を引きずり、蟻ほどの速さでつき進む。
「はぁ……ッはぁ……ッカク、まっててね、……っ絶対私が守るから……ッ」
ああ、ああ、このままでは死んでしまう。
これが今日でなければ、きちんと歩けるようなときであればもっとうまく動くことが出来たのに。もっと出来ることがあったのかもしれないのに!!後悔に溢れた意味を為さないタラレバが止まらずに涙が溢れる。けれど、彼を守るためには今出来ることをするしかない。ずりずりと、ずりずりと。ダランと手を垂らして、もう力もない彼を引きずって這う。綺麗な着物は乱れ、普段の彼であれば目も当てられないと呆れたが、そうやって呆れられたほうがまだマシだ。
「…大丈夫、大丈夫だよ、カク……絶対に助けるから……っ」
アネッタはただそれだけを胸に進み、ようやく縁側へとたどり着いたのだが、やはり奇跡というものはこの世の中に存在しないのかもしれない。とつぜん背中を押す風が障子襖をガタガタと揺らしはじめ、ひやりと肝が冷える。
ああ、背中が重い。
「あ……」
そこには、鴛鴦の姿があった。多分、ジャブラの隙をついたのだろう。此方を、…いいや意識を手放しているカクを見る瞳はいまだ憎悪で色塗られているようで、大きくその場で対空するようにゆっくりと翼を打ち鳴らす。
ガチガチと体が震える。けれども翼を打ち鳴らす事で吹いた風は二人の身体を包み込む。じっとりと湿度の高いそれはいやに重々しく、遠くでもう一羽との攻防を続けるジャブラが「馬鹿、逃げろ!」と声を荒げるが、この状況でどうやって逃げるというのか。
数日間の意識不明の影響で足が動かない自分と、いま意識の無いカク。体格差もあり持ち上げることも出来なければ、守るほどの力もない。
「寄越せ……その烏天狗を寄越せ……」
鴛鴦が低く唸る。
「嫌だ!絶対にあげない!!渡さない!」
アネッタも、間髪入れずに言い返す。
「何故だ……忌々しい烏天狗を寄越すのだ…」
「っあげない!!!」
「ああ、恨めしい…恨めしい……」
怨念篭る声に、アネッタは何を言われても間髪入れずに「渡さない!」と声を上げる。それは聞きようによっては子供の駄々こねにも聞こえるが、彼ほど渡せないものはない。じっとりと包み込む重々しい空気。……ああ、考えれば考えるほど絶対絶命の危機だ。怖い。死にたくない。でも、いくら考えたところでカクを()置いて逃げる選択肢は無い。
「絶対に渡さない!!絶対にカクを殺させなんかしない!」
アネッタは震える身体で冷たい身体を抱きしめる。それから彼の身体を隠すためにまるでダンゴムシのように覆いかぶさった姿は、カクが起きていれば真っ先に叱りそうな光景だが「だめ、ぜったいに、絶対にカクは殺させない」。
うわ言のように繰り返した言葉。緊張は高まり、手足が情けなくぶるぶると震える。アネッタは手が白くなるほどの強い力で彼の着物を掴み、力いっぱい抱きしめた。
……だが、ここでおかしなことが起きる。あれほどギャアギャアと喚いていた鴛鴦たちが水を被ったように静まり返ったのだ。それも、ほんの一瞬のことではない。一秒、二秒、三秒。沈黙は続き、アネッタはおそるおそる顔を上げて振り返ると、すぐ後ろにはあの妖鳥――鴛鴦がいた。枝垂桜のように下がる長い尾に、めらめらと燃えるように揺らめく黒い靄。その鳥はその場で翼を打ち鳴らしながら零した。
「……ああ……恨めしい……」
「恨めしい……だがお前にだけは手を出すことが出来ない…」
「ああ、恨めしい……」
怨み嫉みの言葉が、脳内を直接えぐるように重くのしかかってくる。だが、その陰鬱な響きの中に敵意は感じられない。むしろ、どこか切ない響きが混ざっているような…。カクやジャブラの言うように、彼らは本当にアネッタには手出ししないのだろうか。……でも、どうして?
アネッタの胸に、疑念とともに、一抹の不安が湧き上がる。
何か重要なものを見落としているような。時間がゆっくりと過ぎるような気がしたその瞬間、ふと、胸の奥から暖かいものが込み上げてきた。それが何なのか、彼女には理解できなかった。ただ、その暖かさに導かれるように、アネッタはおそるおそる震える手を鴛鴦に向かって伸ばし、問いかけた。
「……おかあ、さん?」
自分でも信じられない言葉だった。なぜそう思ったのかも、なぜ口にしたのかも分からない。ただ、その瞬間なぜかそう思わざるを得なかったのだ。そして口に出した瞬間、まるでその言葉が鍵となったように、鴛鴦たちの身体からまばゆい光が溢れ出す。その光は瞬く間に広がり、温かく、同時に神秘的なその光は、まるで全ての闇を浄化するようであった。
次第に、光の中から変化が現れる。卵の殻が剥がれていくように、鴛鴦の身体から薄い光の層がぺりぺりと剥がれ落ちて、静かに消えていく中でアネッタは小さく呟いた。
「お母さん……お父さん……」
アネッタの胸に、信じられない思いが押し寄せた。目の前に立つ二人の姿は、あの恐ろしい鴛鴦の影を纏っていたはずなのに、今はどこか懐かしく、温かいものを感じる。両親の面影が確かにそこにあったのだ。
「……なんで、二人が……」
声が震えた。ずっと自分を襲っていた憎しみの影が、まさかこんな形で繋がるとは思いもよらなかった。どうして。どうして両親がこんな姿に。アネッタの胸に、信じられない思いが次々と押し寄せる。目の前に立つ二人は、先ほどまで恐ろしい妖の姿をしていたはずだ。凶悪な眼差し、鋭い爪、そして胸を突くような怨念――すべてが敵意に満ちていた。それが今、どうしてこんなにも変わってしまったのか。
だが、その姿に目を凝らすと懐かしいものが浮かび上がってくる。幼い頃の記憶の中にある、優しい笑顔と温かい声。守られているという安心感。二人の顔立ちや仕草、そして佇まいは確かに幼い頃に見上げていた両親のものだ。
心の奥底で、見えなかったはずの記憶が甦り、形を成していく。忘れていた温もりが、心を少しずつ抱きしめる。しかし、それでも手放しに喜べない現実が目の前に広がっている。
一体どうして。……なぜ、あの恐ろしい存在が、両親の姿に変わっているのか。
理解できずに、胸の中で感情が渦巻く。混乱、戸惑い、そして恐怖と安堵が入り混じり、まるで心が千々に乱れるような感覚。しかし、どれだけ疑念を抱いても、目の前の二人の姿は揺るがない。長い年月を越えて、再び巡り合ったかのような感覚に、アネッタは言葉を失った。
「……わしが悪いんじゃ、アネッタ」
戸惑うなか、意識を取り戻したカクの声には深い後悔と悲しみが滲んでいた。薄っすらと開いた瞳は嬉しい報せである筈なのに、今はどうしてか喜びよりも疑問ばかりが膨らんで、震えながら伸ばされた手が頬を撫でるのを、ただ受け止めるしか出来ない。
アネッタは、答えを求めるようにカクを見つめた。