おめでとうを言いたくて(春日)

 年を越したあと、ひとり外に呼び出されて外に出る。時刻は深夜零時過ぎ。今は狭いアパートの一室で、足立や難波といったいつもの面子で酒盛りをしていたとは言え、この時間帯に此処に来るだなんて一体どうしたのだろうか。というか、そもそもあんなに可愛い子がこんな時間帯に出歩いて大丈夫なのか?
 心配から断っても適当なスタンプで交わす恋人に、一番は不安を隠せない。……まぁ、それも杞憂に終わり、近くまできていた彼女とは直ぐに会えたのだが、駆け足でやってくる彼女はどこか慌てている様子であった。

「一番!」
「よお、××ちゃん。あけましておめでとう!」
「あ、あけましておめでとう!……は今はよくって!そんなことよりも一番って今日誕生日なの?!」
「え?あぁ、おう、そうだけど……」

 普段よりも、いくらか声の大きな声が跳ねる。その声は驚きに満ち溢れており、あまりの勢いに前のめりになる彼女は胸に収まるほどの距離感になっている。けれども肯定を示した後の××といったら頭を抱えだすので、なんだか百面相を見ているようだと息を漏らして笑うと、とつぜん口元に向けた手が掴まれてしまった。

「うん?」

 空いた片手が出したるは、種も仕掛けも無い普通のマジックペン。「…………誕生日ってこと、先に教えてよね」そう言っていじけたように言う彼女はそのペンで容赦なく一番の手の平に何かを書いていく。
 ようやく解放されたのは、およそ三分ほどが経ったあとのことであった。

「……××ちゃん、これって……」
「…………今度、プレゼントさせてね」

 開放された手を見ると、薬指の根本に黒いラインが引かれていた。さらにそこには矢印と一緒に“予約済”という文字があり、視線を向けた先にある××ちゃんの耳が赤い。なんだかそれを見ていると、年が明けた事よりも自分を優先してくれていた事も、こうやって祝う気持ちを表現してくれることもたまらなく愛おしくなって「なんだよ、これじゃあ手ぇ洗えねぇなあ!」と笑う声はやけに弾んでいたと思う。けれども、いまこの胸に抱いたものを決して隠すような真似はしたくもなく、××の身体を抱きしめると彼女はひっそりと一番の誕生日を祝った。