ハン
ハン・ジュンギに不可能な事は無い。料理本を見て、動画を見て。レシピ通りの写真通りに作った卵焼きは斜めに切ってハートに組み合わせて、赤いウインナーにいたっては可愛いカニさん仕様になっている。「××さんの一口サイズはこれぐらいでしょうか……」彼女の一口を思い、菜箸で揚げたばかりの唐揚げを眺める彼の眼差し真剣そのもの。いや、いいや、どちらかというと溺愛に近いだろうか。「……フフ、美味しく食べてくれるとよいのですが」午前五時の小さな呟き。その言葉は存外機嫌良く響いていた。
趙
「いやぁ、まさか××ちゃんのお弁当を作るなんてね」
お弁当の右側にエビチリに春巻き、ホイコーローとチンジャオロースと酢豚を少しずつ詰めて、左側には特製の炒飯を詰める。”青黄赤白黒”を考えて詰められたそれは何とも色合い豊かな華やかな弁当になっているが……弁当の外にはこれを詰めるためだけに作ったそれぞれの品が残っている。
「……さて、これはどう消化しようか」エビチリに春巻き、ホイコーローとチンジャオロースと酢豚。殆ど一口ずつしかとっていないせいで一人前ずつが残った様子に小さく息を落とす。「ま、春日君たちが食べるか」なのでこれは後で適当に移すことにして、あとは彼女に向けてメッセージを残す。「きょうも頑張ってね。感想も待ってるよ~」……これぐらいであれば、下心だとか、いやらしさは出ないだろうか。紙をお弁当を入れた袋へと忍ばせると機嫌良く笑い、待ち合わせの時間を確かめるよう時計を見た。
マスター
客にランチボックスを頼まれた。普段であれば冷麺か、ありあわせか、がっつりか。料金と渡されたものを駆使してそれに見合うだけのものを用意するのだが、今回の客は若い。普段作るようなものは、年齢的に、愛想のない大人びた内容かもしれない。そんな考えから普段とは毛色をかえてキャラ弁なるものを作ってみたが、中々の難易度だ。「これを世のお母さん方は毎日作っているのか……」なんとも頭の上がらない話だ。弁当箱を可愛いランチバックにいれて、それから箸とおしぼりを入れる。……果たして、彼女は喜ぶだろうか。約束の時間に取りに来た××に弁当箱を渡してその背を見送ると、昼頃に送られてきた写真付きのメッセージにフと息を漏らすように笑みを浮かべた。
一番&難波
「難波、まさか俺たちで飯を作ることになるとはな」「全く……お前が安請け合いするからだぞ」「でもよ、あんなこと言われたら作ってあげたくなるだろ?」
朝早く、白い光が差し込む狭いキッチンに男二人が立つ。一番が白米の真ん中に梅干を入れて握る間、難波は簡単なおかずを担当して卵焼きなるものを作ってみるが……流石は安いフライパンだ。油を引いたはずなのにまぁくっつく。「お前よぉ、もっといいフライパンを買えよ」そんなことを愚痴りながらもなんとか巻いた卵焼きは火力が強いせいで、なんというか不細工だ。それでも初めてなんだから上出来だと自分を誉めながら、切りもしないウインナーを炒めてそれらを弁当に詰めると、隣のスペースに置かれたおにぎりに目を細めた。「……一番。お前よ、最後に蓋を閉めるってこと考えたか?」「あ…………」結局、せっかく握ったおにぎりは蓋で潰されてぺちゃんこになっていた。けれど弁当を渡した相手があんまりにも悦ぶから、まぁたまにはいいかもなと二人は顔を見合わせて笑った。