学生の本分は学業だって言うくせに、片道一時間もかかる場所まで”お使い”をさせるのだから、大人って狡い。
秘密裏に世界政府と提携をした養護施設”グアンハオの森”で暮らす子供たちは、未来の諜報員候補生として、学業とは別に様々な事を請け負っていた。その一環で学校帰りに頼まれたのは、何やら厚みのある本の受け渡し。
タイトルは”祟らばの仮面達”というホラーミステリーの小説だったが、恐らくは何かしらの機密情報を忍ばせたものだろう。まさか、到着するなりサイン会に参加させられた時には驚いたが──仮面をした作者にサインをお願いして、握手をして。コッソリとUSBを受け取ったのは、なかなかのスパイ感があって良かった。
そんなこんなで、最寄り駅に到着する頃合いにはとっぷり日が暮れていた。
「……んん……」
いつのまに寝ていたのだろう。頭を下げていたせいか、首の後ろがぎゅーっと痛む。窓の外を見るとすっかり夜の景色になっており、チラチラと輝く星がちりばめられている。「次はー……塔内、次は塔内です。お降りの方は……」アナウンスを聞くに、随分と近所まで帰ってきたらしい。そろそろ降りる準備をした方がよさそうだ。
それなのに、隣のカクは私に寄りかかって眠っている。腕を組んで眠る彼の寝息は静かで、一緒になって眠っていたことはすぐにわかるものの……少しだけ重い。それでも彼がひとり眠っているところを見るのはレアだ。……どうせならこれを残しておきたい。
携帯をインカメラに切り替えて、当たりを見回して乗客がいないことを確認する。それから携帯を持った手を出来るだけ遠くへと向けて、自分と彼の寝顔が入るよう自撮りして頬を緩めた。
「へへ……上手に撮れた」
「ん……なんじゃあ……今の音……」
「あ、ごめん起こしちゃった?珍しく寝てたから撮っちゃった」
「はぁ……承諾の無い写真はいかんのじゃぞ」
言いながらもグリグリと頭を押し付けるカク。それを適当に「いたた」なんて言いながら、いま撮った写真を見せると「わはは……よく撮れとる」と穏やかな言葉が言って、笑いを落とした。
「でしょー、これ待ち受けにしちゃおうかな」
「別に構わんが、お前の待ち受けはいっつもわしじゃのう」
「だーって楽しい時にはいっつもカクが一緒なんだもん」
前の待ち受けは文化祭で撮ったカクの警察官コスプレの姿で、いまの待ち受けは、テーマパークへと行った時の写真だ。お互いに可愛いカチューシャと、サングラスをつけての写真。行ったのはもう随分と前だけど、お気に入りすぎてずーっと待ち受けを陣取っていた。
まぁ、待ち受け画像は複数枚設定できるので、お気に入りの待ち受けは消さずに追加する形にはなるが……それでも新しく設定をした待ち受け画像を見ると、やっぱり頬が緩んだ。
「ねぇ見て見て、ほら。いい感じじゃない?」
「ん」
「ねえ、見てよー」
「見とる見とる。お前がわしのことを大好きなのもよーくわかっとる」
カクはいつもこうやって、やれやれムーブをする。
でも私は知っているんだ。彼の待ち受け画像が、一緒にテーマパークへ行った時の青空だってことも。ほかの写真だって、一緒にいったときの何かで、そこに私の姿はないけれど、アルバムの中には私の写真がいーっぱいあるってことも。
ガタンゴトンと静かに電車が揺れるなか、二人だけの空間というのは妙に心地が良かった。カクは甘えたように身を預けたままで、触れ合った肩がじんわりと暖かい。やがて駅にたどり着くと今までの甘えたはなんだったんだっていうくらいカクはすっくと立ちあがっていったけれど、電車から降りた後「コンビニで、買い食いして帰るか」という彼は少し機嫌がよくて、つい私も頷いてしまった。
「私あんまんにしようかな」
「じゃあわしピザまんにするから半分こするか」
「おお、いいねえ!あれ、でもピザまんとあんまんって合うのかな」
「一緒にして食うわけじゃなし、大丈夫じゃろ」