ピュール
「全く……無茶しすぎですよ。……ほら、ホテルまで背負います」
メガシンカしたポケモンとの戦闘は終えたものの、戦闘で受けた痺れだけが残ってしまった。お陰で歩くこともままならず、座り込んだままピュールのお小言を聞くしかできない。しばらくのお小言を終えると、ピュールは上着を翻しながら背中を向け、膝を曲げてしがみつくよう促した。
「早くしないと、置いていきますよ」「ピュ、ピュール……!」「……今日だけですから」
少しだけ愛想を失くした声も、今は頼もしく感じる。その厚意を受け取り「ありがとう」を伝えてぎゅっと後ろから抱きしめる。しかし──ピュールは起き上がりもせず、沈黙した。
「ピュール……?」なんというか、これではただ抱きしめているだけのような。不思議に思い声を掛けるも返答はなし。暫くの沈黙が続き、一分ほどが経つと彼は持ち上げもせずに一人ですっくと立ちあがり、顔も見ずごにょごにょと言葉を濁しながら言った。
「──ボク、運動苦手なんですよね」「ひ、ひどーい!そんなに重くないですけど?!」「いや、キミが重いとか重いは関係なくて……ただボクの力不足といいますか」「もおお!」
結局、応援でやってきたガイが背負って痺れ騒動は解決。ホテルにてガイが「まぁ、ピュールは後方支援って感じだしな」と笑いながらピュールの背を叩くと、彼は眉間に皺を寄せたまま少し居心地が悪そうな顔で呟いた。「これまではそれでいいと思っていたんですけど……流石に危機感を覚えましたね。もう少し、考えを改めた方がいいのかもしれません」
ジプソ
「……お困りのようですね」
痺れが取れない。ポケモンを出そうにも先の攻撃でモンスターボールにヒビが入ったせいで開閉ボタンが反応せず、頼りのまひなおしも品切れ。壁に凭れたままズルズルとしゃがみこむと、あまりにも出来すぎたタイミングでジプソが前を通りかかった。
足を止めたジプソの低い声。硬い煉瓦造りの道を叩く踵の音がやけに大きく感じる。
「……失礼、少し体に触れても?」
訳を話してもいないのに、何があったのか察したらしい。彼は近付くと、一言声をかけてから身体をひょいと抱き上げた。「この恰好は少し恥ずかしいかもしれませんが、痺れて掴む力もないでしょうから我慢をしてください」「それから、その故障したモンスターボールはうちと提携している修理店に回しましょう」「事情についてはカラスバさまの前で」お姫様抱っこへの理由と、生真面目な先導。何かを気にして視線を別に向けるジプソはひとまずと言った様子で歩き出すと、「ジプソさんが通りかかって良かった」と零す××に、ジプソは視線だけを向けた後、また前を見て呟いた。
「ワタクシが通りかかって運が良かった?……そうですね、そういうことにしておきましょう」
カラスバ
「ははあ……けったいなモンがおるとは聞いとったが、まさか見境いなくうちの身内に手ぇ出すとは……。」「えらい元気でいらっしゃいますなぁ……ほな、保護者としてお礼をさせてもらわんと──なぁ?」
明らかにトレーナーを狙った違反行為。それもカラスバが目を付けたものであればなおさら──逆鱗に触れたのは当然の事であった。笑いに滲ませた威圧感と彼の手から放たれた相棒のペンドラー。それが一連の犯人を倒すのにそう時間はかからず、全てを終えたカラスバは彼女のもとで膝を地面につけた。
「……さ、帰ろか。お説教はベッドでも出来るやろ」
少しだけ乾いた肌が、頬にザラリと触れる。それでもその声は柔らかく、ホッと息を吐き出しながら彼の肩口に頭を寄せると「どこまでも追いかけるさかい、頼るのはオレだけにしとき」と囁くような声が耳元を撫でた。