ユディトと二人きりの任務に抜擢されたのは、CP0に昇格してすぐの事であった。
サイファーポール”イージス”ゼロのユディト。仮面組と揶揄されるあの組織の中で、それに倣うよう仮面をつけた彼女は小柄で悪目立ちをしていた。仮面をつけた正体不明の女。それを訝し気にする者は多いものの、CP0は媚びが通用する組織では無い。
だからきっと彼女も指折りの実力者であると思うのだが……彼女を囲う男たちは、随分と過保護であった。
「アネオス、お前のことは信じちゃいないがユディトの事を頼むぞ」
「くれぐれも馬鹿な気は起こさないように」
折角の昇進を台無しにはしたくないだろう。
マハとヨセフによる丁寧な釘射しを適当に躱して、任務の中でも彼女最優先の特別待遇で頑張ったと思う。不埒な野郎は裏で蹴り飛ばしたし、部屋も当然別れている。だから出来うる限りの事はやった筈なのだが──終わりの間際に見せた沈黙が寂しさを表しているように思えてならない。
アネオスは、宿屋での手続きを終えて部屋へと向かうユディトを引き留めて声を掛けた。
「ユディトさん、これあげる」
差し出したのは、オパールの指輪だった。それも一切飾り気のないリングにあるオパールは随分と大粒で、乳白色のなかに赤や黄色、青に緑とチラチラ泳ぐ遊色がある。突然手渡されたそれにユディトは思わず怯み、警戒を見せるものの……なんというか差し出し方に色気がない。
なんせ、アネオスはリング部分を摘まむようにして持っていた。もしもこれがプロポーズなり口説き文句であれば、もっと指に通すことを考えて輪の部分は空けて見せる筈だ。ユディトは彼の摘まんだ指輪を見て、それからアネオスに見る。アネオスは金色の瞳を細めるようにして笑みを浮かべた。
「ほら、このオパールは白が基調だし、このチラチラと見える赤とか黄色とか、そういう遊色がヨセフとかジスモンダ のあのピラピラとかマハとかゲルニカっぽいだろ?」
「だから、これはユディトさんにあげる」
それだけの、それ以上の感情がないプレゼント。彼は空いた片手でユディトの手を掬い、肌を覆う白手袋の上に指輪を乗せる。それも彼の中では拒絶されるなんて選択肢は存在しなかったのか、それ以降のアネオスはサッパリとしたもので、「明日も頑張ろうな」と言うだけでさっさと部屋に戻ってしまった。
「…………変な男」
ぽつねんと、ひとり取り残されたユディトは部屋へと戻る。
今日の宿は簡素な作りで、壁には細かな隙間があり、風が小さく鳴っていた。
「……こんなもの、持っていてどうするのよ」
手袋越しに、ほんのわずかな指輪の重みを感じる。先の彼と同じように指輪を摘まみ月明かりに透かしてみると、角度を変えるたびに、白い輝きの中で赤や青の美しい遊色が揺らめいていた。ユディトは小さく鳴り続ける風を聞きながら、暫く指輪を眺め続けていた。