「しゃがめ!アネッタ!」
「はぁーい、っと!」
CP9に在籍している限り夢にあふれた仕事が到底無理であることなんて分かっていたが、どうしてこうも血生臭い任務ばかりなのだろう。
不意に届いた聞きなれた声を疑うことなく、その場にしゃがむと自分の頭の上を無数の斬撃が風を纏いながら通り過ぎて、私の背後で刀を構えた男たちを一掃し、わたしは振り向きざまに刀を振るい、遠くで剣を構えた男たちを薙ぎ払う。
とはいえ、致命傷狙いではなく薙ぎ払っただけだったこともあり男たちが息絶えるはずもなく、腹や腕などを抑えながら立ち上がり、ぶるぶると震わせる指を向けた。
「お、おまえたち…ま、まさかCP9…?!そ、そんな…っ、そんな、世界政府の犬がどうしてーー」
その瞬間、ごしゃ、という何かがつぶれたような音がして、言葉が途切れた。
それが頭がつぶれたことが原因だと分かったのは、指を向けた男の頭に足を乗せる幼馴染の姿を見たからで、それを見ていた男の部下らしい複数名はひい、と情けない声をあげながら背を向けて逃げて行ったが、今回の任務上、残念ながら逃がすわけにもいかないため、きっちりと仕留めると、倒れて息絶えた男から刀を抜きながら、ふうと短い息を落とした。
「これで終いかのう。」
カクが任務終了だと零す。あたりを見回しながら刀にべったりとついて滴る血を見て、一度刀を上から下に振って血を払ってから鞘へとしまった。
「そうねー」
「じゃあさっさと切り上げて帰るかのう…って、どうしたんじゃ、死体なんか見て。」
「…いや、この死体……、…。」
と、いうのが数時間前の話。
今の私は任務を終えて、集合場所に集まったジャブラに耳に穴を開ける方法を教えて欲しいとおねだりしているところだ。
「…自分が殺した輩の耳を見て羨ましくなったってお前狂ってんなぁ。」
ジャブラは経緯を聞いて、どこか呆れたような様子でつぶやく。
まぁ否定はしないのだが、あまりにも正論をかましてくるので言葉が詰まってしまった。
「別にいいでしょ、ほら、それでジャブラはどうやって耳に穴を開けたわけ?」
「おれが開けた頃にゃピアッサーなんてなかったしなァ、焼いた針でぶすりと一刺しだな」
「うげ…」
「おれが開けてやろうか?」
「ジャブラに頼んだらめちゃめちゃビビらせようとするから結構です!」
「チッ、んだよつまんねェな~」
ジャブラに頼んだら、ほ~ら刺すぞォ、あー、いてぇだろうなー、でもお前が頼んだんだから仕方ねぇよな、いやーいてぇだろうなーとかなんとかをにやにや笑いながら言ってくるに決まっている。そしてビビり散らかしている私を見て大笑いするにきまっているのだ。
「うーん…しかし針、かぁ」
「というかCP9ともあろう者が針ごときでビビるってのはどうなんだァ?」
「戦ってるときはドーパミンドパドパであんまり分からないのよねぇ」
「分からねぇこともねェがよ、耳なんて一瞬だぞ」
「…痛い?」
「そりゃあ痛いだろ」
「やだー!」
私の反応を見てやっぱりジャブラはげらげらと笑う。まったくなんて男なんだ。
別にまだ穴を開けてないというのに、自分の耳を確かめるようにふにふにと触ると、近くに座っているカクの耳に手を伸ばしてふにふにと触ってみる。もちろん無許可で。カクの耳は穴を開けたような形跡もなかったが、もし耳に穴を開けるならばカクかジャブラがよいか、天秤にかけたら100/0でカクに傾くわけで、私はふにふにとカクの耳を触り続けながら
「うーん…よし、カク、私の耳に穴開けて!」
といった。
「ん?あぁ、別に構わんがわしはやったことないぞ?」
「でもジャブラより数千倍マシでしょ?」
「まぁ、そうじゃろうな。」
くく、と笑いを漏らすカクから離れたところでジャブラの「ひでぇな!」と声が響く。しかし善は急げということで私たちは耳を開けるのに必要な材料を調達すると、最低限の報告だけ行ってふたり共にその場を後にした。
「おれよかアイツの方がずっとタチ悪ィと思うがなァ」
ジャブラの嘆きは誰にも届くことなく床に落ちて溶けていった。