グアンハオ中央にある塔の中腹屋根に幼い影が二つ。消灯時間が過ぎたにも関わらず部屋を抜け出したわしらは、ホットミルクを片手に他愛のない話をしていたが、丁度ホットミルクが尽きた頃合いで〇〇が大きく口を開いて「ふああ、」と欠伸を零した。
そしてコテンとわしの肩に頭を預けた〇〇はホットミルクのお陰で体が温まって眠たいのか、じんわりと暖かく、むにむにと口を動かしては瞼を閉じて黙り込んでしまった。恐らく眠る体制に入ろうとしているのだろう。
なんとも名残惜しいが、此処で寝てしまっては風邪をひくし何より寝相の悪い彼女のことだ。落ちてしまうに決まっている。わしは○○の顔を覗き込んで柔らかそうな頬をむに、と摘まむと〇〇から「いう」と単語にもならない音が落ちた。
「こら〇〇、ここで寝たら落ちてしまうぞ。部屋まで送っていくからもう寝よう。」
「ん~~~~~…。」
相変わらず眠たそうであったが、〇〇は頭を上げてゆっくりと立ちあがるともう一度大きく欠伸を零す。うとうとしている様子を見るに、きちんと部屋まで送っていかないと、階段で転げ落ちてしまいそうだ。片手には空のマグカップを持ち、もう片方の空いた手で〇〇の手を握ると、中に入るための窓へと屋根伝いに歩みを進めたが、ふと思い立ってその場に足を止めてからこの塔の頂上付近へと視線を上げた。
「…んん、…カクいかないの……?」
「ん、あぁ。」
わしが止まったことに気付いた〇〇は、眠たそうにわしを見つめて、それから何を見ているのか確認するように視線を上げた。視線の先にある屋根部分には外側にはみ出した樹木があり、風を受けたそれはざあざあと音を立てながら揺れている。
「いや、あそこに……」
「んー…?何かあった?」
「……あぁ、そうか、〇〇は見えんか」
これはちょっとした眠気覚ましの遊びだ。実際のところなんにも見えちゃいないのだが、まるで何かが居るように視線の先を指をさす。しかし、ただでさえ臆病の〇〇にとっては、眠気が覚めるほどの出来事だったようで、月明かりを受ける金色の瞳はそりゃあもう面白いぐらいに怯えていた。
「ねぇ、まってカクは何か見えてるの……?」
「ん、いやぁ、……〇〇は見えておらんのなら別にいいんじゃ」
わざとらしく言葉を濁らせて「早く部屋に戻ろう」といったが、握る彼女の手には力が入っており、今にも泣きだしそうな顔をして「こわい」と零すので、じわりと心に何かが滲んだ。申し訳なさでも、反省でもない、また別のそれが一体何という感情なのかは分からないが、特別彼女が可愛らしく見えて手を握り返してやったが、彼女は怯えたままだ。
「……怖がりじゃの~、これから部屋に戻るんだから大丈夫じゃろ」
「でもジャブラが幽霊はついてくるって。」
「ジャブラが?」
〇〇はこくりと頷く。まったくジャブラめ、余計なことをいいおって。
まぁしかし、たまにはジャブラも良いことを言うものだと思うのは、隣でわしにがっちりとしがみついて眠る小動物のような彼女がいるからで、タオルケット代わりにした薄っぺらい布を彼女の胸元まで上げてやると、彼女は一体何の夢を見ているのか、「うーん…」と眉間に皺を寄せながらうなされている。それが面白いやら可愛いやら。とりあえず彼女が恐怖からおねしょをしないことを祈りつつ、自分よりも少しばかり小さな手を握ると、瞼を閉じて眠りへと落ちた。