「鉄塊拳法!」
後ろに引いた腕が岩の鱗を纏い、その上をコーティングするように冷たく硬い感覚が腕に伸びる。そうして防御に防御を重ねた片腕は拳を握り、「鉄塊拳法・重歩狼(ドンポーロウ)!」と向かい来るジャブラの拳を迎え撃つと、互いに攻撃は相殺。代わりに、衝撃波が互いの髪を靡かせて、ビリビリと僅かに痛みを伴う電流が肌を走ったが、そこで手を緩めたことが悪かった。
ぐっと足を踏み込んだジャブラが腰を捻り、アネッタを押し返すように一層力を込める。すると力に押し負けたアネッタの腕は外へと弾かれて、それによりがら空きとなった腹部を鉄塊拳法・狼弾(オオカミハジキ)が叩き、アネッタの体は後ろに弾き飛ばされる事になった。
「ふぎゃ!」
なんて間抜けな声と共に壁に叩きつけられるアネッタ。
壁は脆く崩れて、埋もれてしまうことになったがジャブラは「ギャハハハハ!手を抜いたのが間違いだったなァアネッタ!」と笑うだけで心配を寄越すことはない。まぁ、それも彼女がそこいらの人間とは違ってタフだからだと分かっているからなのだろうが、それにしても容赦がなさすぎる。アネッタは瓦礫を落しながら身を起こしてジャブラを睨むと「狼弾までやると思わなかったんだもん!」と声を上げた。
「油断したオメーが悪い」
「そ、そうだけどさぁ……」
「……ま、でもさっきの一撃は中々よかったぜ」
近付いてきたジャブラが手を差し出す。
アネッタはそれを見て少しだけ感動を覚える。あのジャブラが褒めてくれるだなんて!少しでも強くなれたのかなとちょっとだけ期待したのだ。途端にお腹がこそばゆくなってアネッタは口元を緩ませながら手を向けるが、ジャブラはどこまでも意地悪だ。彼は手が合わさる前にわざと手を上げるので、アネッタが向けた手は空を切り、それにより体勢を崩したアネッタはもう一度前に倒れて唸ることになった。
「ギャーッハッハッハ!!お前も学ばねぇなぁ!」
「裏切ることを覚えたのはジャブラのお陰だよねぇぇぇ……」
恨み言を聞いてジャブラは笑う。しかし、いまだうつ伏せになっている彼女の首根っこを掴んで持ち上げると、「誉めてくれてありがとよ」と肩を揺らした。
彼女と彼の関係性は、いわば師弟関係のようであった。年齢はかけ離れているが、幼い頃から共に育ち、とくにジャブラの背を見て育ったアネッタが、ジャブラに教えを乞うようになったのは自然ともいえる。まぁ、その様子を見て、頼むからジャブラの性格まで学ばないでくれと一部の者は思っていたようだが、そのあたりはなんとかなったと思いたい。
「ぬう……、っあ、そうだ、今の衝撃で思い出したけど今日ってジャブラの誕生日じゃない?」
「あぁ?あー……まぁ、そうだな。なんだよ誕生日プレゼントでもあんのか」
「もちろん、お酒は多分他の人たちが渡すと見越して私はねぇこれにした」
言って、首根っこを掴まれて宙に浮いたままのアネッタはポケットに手を伸ばす。取り出したのは小さな小さな小箱で、一体なんだとジャブラが首を捻るが、なんせ特訓後の話だ。疲れすぎて握力が弱まっているのか、アネッタは「あっ」といって小箱を足元に落すとジャブラは息をついて「お前人にやるプレゼントを落とすなよ」と言いながらアネッタを落とすと「ふぎゃ!」と言いながら再度地面に落ちることになったアネッタを一度踏んづけてから、小箱を拾い上げた。
「お、なんだピアスか?」
拾い上げた小箱の中には、金色のフープピアスが収まっていた。
重みを考えると純金だろうか。グアンハオに居る時はへったくそな字で書かれた肩たたき券だったのに、今は純金ときたもんだ。その成長が嬉しいやら、感慨深いやら。ジャブラは日差しを受けてきらきらと光るそれを見ながら、「隙あり!」と腕を伸ばすアネッタの頭に拳を落とすと、また何かぎゃんぎゃんと鳴いていたが、まぁいつものことだ。
「ううっ、絶対イケると思ったのに……」
「お前な、おれが何年クソガキ共と一緒にいたと思ってんだよ」
「くう……」
「ま、ありがとな」
「はぁい……」
ジャブラは腹部のこそばゆさにぶっきらぼうに言葉を零す。渡し方はどうであれ、プレゼントはプレゼントだ。嬉しくないと言えば嘘になる。ようやく身を起こした彼女は「私の誕生日が楽しみだなぁ」なんて抜け目ないことを言っていたが、それがちょっとした照れ隠しであることを解っているジャブラは「ちゃっかりしてんなぁ」と笑うと、小さな背をばしんと叩いた。