媚薬


「おっすおっす、媚薬盛られたって聞いたけど大丈夫?」
「……帰れ。」
「人が体調気遣ってんのに随分ねぇ。」

ソファに腰を下ろした黒岩は、こちらなんて一瞥することなく、まるで項垂れるように少し前屈みに体を倒しては膝あたりに肘をついて、手のひらで額を抑えている。催淫剤は理性を殺し、兎に角えっちな気分にさせるものだと聞くが、黒岩には効かなかったのだろうか。常々化け物じみた男だと思っていたが、まさか薬にも抗体があるなんて、まじで化け物じゃん。ーーなんて思いながら私は彼の前で膝を折り、顔を伏せる黒岩の顔を覗き込むと目を瞬かせることになった。
前言撤回、彼は必死に首の皮一枚となった理性を繋ぎ止めていただけで抗体なんてなかった。額に大粒の汗を滲ませる黒岩は、血色が良すぎるほどに頬を赤く染めて、余裕も無く「…離れろ。」と言葉を吐き出すと私をきつく睨み付けた。

「あー……もしかしてしっかり効いてる?」
「効いてないように見えるのか。」
「…ですよね。」

不快感を隠す事なく露わにする一方で、瞳の中でぎらぎらと見え隠れする化け物に、私は思わず息を呑む。それから彼の要望通りに距離を取ったが、やがて理性を切らした化け物に捕まって深い闇に落ちたのは言うまでもない。