ハロウィン

仮装した若者たちで賑わう街中を抜けて、テンダーの壁際席へと腰を下ろしたの一時間前の事。仮装をしない代わりにゴーストカクテルだとか、矢鱈と名前の長いブラックマジックハロウィンカクテルだとか、ハロウィンにぴったりなカクテルを飲みながらハロウィンというイベントの雰囲気に浸っていると、「よお、一人か?」と背筋が冷えるような低い声が耳に響いた。

「黒岩…」

他に席は空いているのに何故、私の隣に座るのだろう。矢鱈と顔が整った男は、此方がまだ何も言っていないというのに一緒に飲む気満々な様子で店主に酒を頼めば視線を此方へと移したが、情報屋という違法行為も行う職業柄、彼と連むのは御免だ。なんせ相性が悪い。

「…帰ろうかな。」

これが同じ情報屋で悪徳警官の綾部だったら歓迎していただろうが、酒の席でも逮捕されぬようご機嫌取りするのは御免だ。視線を外して立ちあがろうとすると、黒岩は背凭れのない丸椅子をくるりと回して、進行方向を塞ぐように長い脚を伸ばす。

「つれないこと言うなよ、飲もうぜ。情報屋。」

情報は何処から手に入れたものだとか野暮な事は言わねぇから。そう愉悦を滲ませた声色に私は息を落としてはもう一杯、うんと強い酒を頼んだ。


「あぁ、街中に出るなら千両通りは寄らない方がいいわよ。」

饅頭怖いの如く、焚き付けた言葉に酒を煽る男の手が止まった。端正な顔立ちをした男は野暮な事は言わずに「値は。」と言葉を返すので、「一杯奢ってよ、黒岩刑事。」と愛嬌たっぷりに猫撫で声で提案をすると、酷く訝しげな表情が返ってきた。しかし、店主に向けて奢りの一杯を注文するあたり交渉成立と考えても良さそうだ。

「いま千両通りでRKの下っ端がせっせと何か運んでるのよ」
「…ヤクか。」
「ヤクか、危ない玩具か…其処らへんは残念ながら掴めてないけど、下っ端を手厚く配置してるみたいよ?」

それ以上は説明せずとも、黒岩ならば尻尾を掴む筈だ。 カウンターに腕を置いた黒岩は、何か思案する様に手のひらを伏せて、人差し指の爪先でカツカツとテーブルを数度叩くと、緩慢な様子で視線を此方へと向ける。

「…、………情報屋にしてはえらく破格だな。」

静かな問いかけはRKと手を組んでいるのではと言う疑いか、はたまた純粋な疑問かは定かでは無いが、「ま、私も彼らを迷惑だと思ってる側の人間だから。」とご愛想程度の笑み付きで返すと、黒岩は露骨に舌打ちを一つ。

RKは一体何を腹篭りさせているのか腹積りは未だ掴めていないが、仏が増える前に芽を摘んだ方が良いに決まってるのだ。人と云うのはアジャラカモクレンテケレッツのパーなんて間の抜けた魔法の言葉で生き返ることなんて無いのだから。
そうして手にしたグラスを大きく揺らすと、からんと氷を滑らせた音がやけに大きく響いた。