酔っぱらった日には二人で眠って

 仮住まいの家に帰宅して、早々に〇〇との宅飲みが始まった。グアンハオで出会って以降、片時も離れずな状態だというのに話す事は尽きないもので、気づけば時刻は0時を回り時計の針は1の数字を指していた。ああ、どうりで眠いわけだ。
 明日も早いのでさっさと〇〇を隣の家に帰して寝たいのだが、目の前の〇〇ときたらすっかり出来上がっており、わしがお帰りを願うよう、分かりやすく廊下に繋がる扉を開いて「ほら、もう部屋に戻らんか」と言葉を向けても「んへへ」と緩ーい笑みを浮かべるだけ。

「んへへじゃない。…全く仕方がない女じゃ。ほら、部屋まで送るから行くぞ。」
「いやでーす、今日はカクのおうちで寝るねぇ。」
「寝るねぇじゃないわい。男の家で寝ようとするんじゃない。」

 豆腐にかすがい、糠に釘。酔っ払いは無敵だ。こちらが断りを向けてもへらへらとした笑いで跳ねのけてしまうのだから。

「なんで?昔は一緒に寝てたじゃない。」
「……それは昔のことじゃろう。」
「そうだよー?だから久しぶりに一緒に寝ようよ。」
「…………。」
「…駄目?」
「……お前は変わらんな。」
「変わっちゃったのはカクの方じゃない。」
「お前が変わらなさすぎるんじゃ。」

 この関係性も。〇〇の意識の変化の無さも。
 廊下に繋がる扉をぱたんと閉めた時、彼女はきっと交渉成立と思っただけで其処に何が含んでいるのかなんてわかっちゃいないのだろう。歩を進め、彼女が体を倒して占領しているベッドに腰を下ろしたわしは、まるで組み敷くように顔横に手を置いて見下ろしたのだが、〇〇はとろりと蕩けた金色の瞳を細めてくすくすと笑うだけ。動揺なんて1mmも見えない。

「………んふふ」
「なーに笑っとるんじゃ」
「一緒にお泊りできるの嬉しくて」
「……、………そうか」

 ああ、こりゃあ駄目じゃ。アピールなんか効きやしない。
 わしはため息交じりに身を起こして、ついでに上着を脱いでそこらに放って隣に寝転ぶと、同じく隣に寝転んでいた〇〇が目を瞬かせた。上裸になったことで漸く男と女が寝るとどうなるのか理解したのだろうか。しかしその期待も虚しく、〇〇はずいと身を寄せると、無遠慮にわしの腹や胸に触れて「カクって着痩せするタイプだよねぇ。」とどこか関心したような様子で零すので、鈍感もここまで来たら無敵じゃのう。と呆れに似た吐息が落ちた。

「同じだけ働いて、同じように筋トレしてる筈なのになんでこんなに………」

 つうと腹で滑る指先がこそばゆい。彼女の方に体を向けて肌に触れる悪戯っ子の手を捕らえると、〇〇の瞳がもう一度瞬いてどうしたのと問いかけるような視線が此方へと向けられる。

「くすぐったいんじゃ」
「私の前で脱ぐのがよくなかったね……」
「暑いんじゃから仕方ないじゃろう」
「ほー、じゃあ私も脱ぐかぁ」
「やめんか酔っ払い」
「んはは」

 そう言って彼女は呑気にふにゃふにゃと笑うので、捕えたままだった片手にするりと指を絡ませる。彼女の手は己よりも小さくて、指の股を爪先で摩るように触ると〇〇は不思議そうに此方を見上げたが、そのまま額や目尻に触れるだけの他愛のない口付けを贈って、絡ませた指をそのままに手のひらの感触を楽しむようぎゅっぎゅと握る。

「んふふ、くすぐったい。…ふふ、どうしたの?」
「…わしも酔っとるのかもしれん」
「あはは、酔っ払いめ」
「お互い様じゃろう、酔っ払いめ」

 〇〇はここまでやっても気付かない。握る手の意味も、指先で指の節を撫でるその意味も、口付ける意味も。
 鈍感な彼女を意識させて、次のステップに進むためにはもう少し先の仕掛けが必要で、いまこの距離であればそれを行うことも出来たのだが、それが出来なかったのはこうして無意識下にも己に甘えを見せる彼女の姿を見たからで。現にあふ、と欠伸を漏らす〇〇は暖を取るように此方へとさらに身を寄せて、胸板に頭を寄せる。そうすると彼女の顔はろくに見えなくなってしまったが、じんわりと彼女の温もりが伝わって、その心地よさにわしもまた欠伸を零す。

「……カク」
「ん?」
「…明日は……一緒にさぁ…朝ごはん食べよう……ねぇ…。」
「…そうじゃのう。」
「私頑張って美味しいの作るからさぁ……だから……、………」

 言い終える前に彼女は眠ってしまった。身を寄せたまま僅かに身を丸めるようにしてすうすうと眠る彼女は湯たんぽのように暖かくて、此方もまた暖を取るよう腰を抱くと、彼女は少しばかり苦しそうに「んう」と音を溢したが、それは聞かぬ振りして瞼を閉じた。