試食係

「ジャブラ、あーん」

 口元に寄せられる、黄金色にてらりと輝くそれを食む。口内で食感良くざくざくと崩れていくそれは、キャラメルの甘さと、上に乗っかったローストされたアーモンドスライスの香ばしさを乗せて鼻から抜ける。口の中にはしっかりとした甘みが残ったものの、くどさはなく、時間が立つにつれて消えゆくそれにもう一つ食いてぇなと思ったのは、いま食べたものに対する最大評価だろう。

「お、うめぇなこれ。」

 おれは素直に零す。もう一個寄越せと強請るとアネッタは嬉しそうに顔を綻ばせたが、残りの分については明日の配布用らしい。あっさりと、そりゃあもうあっさりと「だーめ、あとはみんなに配る用だから。」と言って首を横に振った。
 なんて女だ。試食で釣った魚に餌をやらないとは。利用してすぐにポイとは趣味が悪い。

「んだよ、ケチくせぇな」
「ケチじゃなくて、本当に数が少ないの」

 その言葉にチッと舌打ちをしたが、こいつはおれのことをよく知っている。アネッタは怯む気配すら見せることなく「舌打ちしてもあげません」と釘を刺してきやがった。

「……」
「……あげません。」
「……あ!おいアネッタ!あっちにカクがいるぞ!!」
「え?!」

 古典的な方法ではあるが、扉に向けて指をさすと、馬鹿なアネッタは驚いた顔でそちらを見る。多分カクには見せたくないのだろう。そうして他所を向いているうちにさっき食った菓子を二つほど頂戴して証拠隠滅だと口の中に突っ込んだのだが、呆気なく見つかったらしい。「ちょっとぉ……」とアネッタが眉間に皺を寄せて此方を睨む。

「ぎゃはは!隙を見せたお前が悪ぃ!」
「もー…一番出来の良い奴は取っておいたからいいけどさ。…まぁ、でもそれだけ美味しいってことよね?」
「おぉ、昨日食った奴よりかこっちの方が好きだわ」
「ふむふむ。うーん…やっぱり甘い物の試食係はジャブラが一番だなぁ」
「あぁ?……そうかよ」
「だってさぁ、ルッチなんて甘いしか言わないんだよ?」
「ルッチぃ?」
「そう、生チョコあげても甘い。クッキーをあげても甘いしか言わなくて、そうじゃなくて美味しいか美味しくないかどうなのって聞いても甘いしか言わないんだもん。埒が明かなさ過ぎてびっくりしちゃった」
「ぎゃはは…!そりゃあの化け猫は甘いものなんて好きじゃねえだろ」
「そうだけどさぁ……」

 アネッタはぶすくれていた。そもそも、試食係にあの化け猫を選出するあたりクソ馬鹿でしかないのだが、そうやって思い通りにならないと唇を尖らせて拗ねるのは昔から変わらない末っ子らしい光景だ。

「ま、これはうまいから自信もてよ。ついでにもう一個寄越せ」

 きっといま食った菓子は、ようやく付き合い始めたカクに向けたものだろう。別にお前が菓子をやりゃあアイツは失敗したものだろうが喜ぶだろ。そう思いはしたが、その言葉を飲み込んでご機嫌取りに背を叩くと、アネッタは嬉しそうに笑ったが、もう一枚を寄越すことはなかった。