「わはは……いつ見てもお前は可愛い奴じゃの~」
とっぷりと日が暮れた夜。まさか飲みの席で、此処まで泥酔するとは思いもしなかった。
ウォーターセブンにやってきて五年。きょうの飲みに参加をしたのはパウリーやルル、タイルストンにルッチとガレーラカンパニーでも名だたる職長たちで、気兼ねない席であったことは確かだ。しかし、タイルストンやパウリーと同レベルに酔っぱらうのは珍しく、ルルが強面な顔で心配を呟いている。
「アネッタ、カクは大丈夫なのか……あんなに酔っぱらうなんて初めて見たな」
「うーん……大丈夫ではなさそうな感じがする」
……そういえば、昨晩も、その前も、世界政府側の仕事で寝ずに書類を作成していたと聞いている。もしかして、その疲労が全て酔いを深めてしまったのだろうか。
考えている間にも、手を引かれて胸元へと招かれる。頬を寄せた胸板はいつもよりも温かく感じて、チラリと見上げた顔も赤く見える。ただ、まさか泥酔の先で褒められるとは思わないだろう。「可愛い」だの、「お前を他にはやりとうない」などなど。降り注ぐ言葉はどれも甘ったるく、妙な照れや恥ずかしさでお腹がムズムズとする。
それを誤魔化すように胸板を押すと、カクは離れるどころかぎゅっと抱きしめて、私の頭に頬を寄せながら言った。
「ツレんのう……ワシャもう用無しなんか」
その、甘えた声と顔と言ったら!
この男、私がこういうのに弱いと分かっててやってる……!
これがもっと鬱陶しい絡み方だったら、遠慮なく彼を蹴っ飛ばしていたと思う。でも彼は甘えた顔で、頬を摺り寄せて甘えてくるのだ。こんな彼を蹴っ飛ばせる相手なんて、きっとカリファくらいしかいない。
結局わたしは捕まったまま。その間も、彼はまるで寵愛 を示すように愛に相応しいことを囁いていた。……ううん、いったいどこまで本気で受け取って良いものか。
「……明日、このこと覚えてるかなぁ」
「ム……ワシャずっと覚えとるぞ」
「うーん、覚えてたら明日はとんでもないことになると思う」
だって、彼は明け透けに愛を囁くような人ではないのだから。
だから、きっとこうやって愛に等しい事を言ってくれたってそれが本当かは分からない。もしかしたら酔いが普段よりも私を魅力的に見せているのかもしれないし、嘘を並べているのかもしれないし。でも、見上げた彼があんまりにも幸せそうな顔で言うものだから、私は自ら彼の身体をぎゅっと抱きしめてみた。
「うん?どうした、アネッタ」
ふわふわとした、穏やかな呼びかけ。機嫌の良い時よりも、ずっと落ち着いて、穏やかな時のなかにあるような。その言葉がもう一度聞きたくて、「カク」と尋ねたのは、ちょっとした欲しがりだったのかもしれない。それでも、カクはまた「アネッタ」と名前を呼んでくれるので、私は思わず今ある気持ちを「大好きだよ」の六文字で伝えると、彼は幸福を噛みしめるように笑って抱きしめて――そしてそのまま後ろに倒れた。
*
翌朝、窓から差し込む陽の光で目が覚める。
時間は七時手前。身を起こそうにも頭が割れるように痛み、陽射しさえも鬱陶しく感じて枕を手に取ったが、妙に重さを感じる。不思議に思い、寝ぼけ眼で其方を見ると、そこにはアネッタがいた。
ひとの枕を使って気持ちよさそうに眠る彼女は、わしの身体を抱き枕のように抱きしめており、足まで絡めている。
……一体なぜわしの部屋に。服の乱れがないあたり、“そういった事”をしたわけではなさそうだし、チラリと見える鎖骨にも痕は無し。普段からウォーターセブンでは一緒に寝たりはせんぞと口酸っぱく言っとるのに、此処でこうやってグウグウと寝ているということは、昨日はわしが許したということか?
そうやってきのうの記憶を巻き戻したとき。昨夜の出来事全てが頭の中で再生されて、わしは火を吹き出しそうな体を倒し、「最悪じゃあ……」と熱を帯びた顔を手の甲で隠した。