クリスマスに何がほしい?

春日
「なぁ××ちゃん、今度のクリスマス……おれも何か、その、クリスマスプレゼントってやつをやりてえんだけど、……どうかな?」
たまたま鉢合った帰り道。「暗いから最寄り駅まで送らせてくれよ」との誘いを受けて、並んで歩いている最中。春日が足を止めた。それに気づいたのは、先を数歩歩いたあとのこと。××は踵を返すように振り返る。「一番くん……?」「なぁ、××ちゃん──」夕日を背負う彼は、明らかに緊張した面持ちで、握りしめた拳は絞り出した声と同じように震えている。精いっぱいの勇気を振り絞ったつもりだったのだ。
──しかし、今回ばかりは相手が悪かった。相手は驚くほどの鈍感少女。「いいね!真澄さんや沢城さんたちにあげるんでしょ?」そう言って笑う彼女のあどけなさといったら。予想外の方向に「え、あ、いや、その」と言葉がうまく出ず。「あ、じゃあ、このまま駅前のショッピングモールでプレゼント選ぼうよ。私も真澄さんたちにあげたいし、一番くんにもあげたいんだー」と提案する彼女に、春日に衝撃が走る。だって、それは紛れもなく勇気を振り絞って求めていたことではないか。
思わず次に出た言葉は、自分でも驚くほど声が大きかった。「ああ、行こう!……俺も!!俺もっ!××ちゃんにあげてえんだ!!」「わっ、あはは、なになに声おっき。でも、ありがと、じゃあ一緒に選ぼびにいこ!」「おう!」春日は思う。……これはこれで、大勝利、なのか?なんだか色々と思っていたものとは違ったが、二人なかよくショッピングモールへ向かう足は、やけに弾んでいた。

マスター
「折角のクリスマスだからな、サンタにはなれないが何がほしい」
まぁ、最近頑張っていると言っていたしご褒美みたいなもんだな。他愛のない話の延長先で、とんでもないご褒美が待っていた。マスターからすれば、そのクリスマスプレゼントは来場者特典ならぬ来客者特典なのかもしれない。けれども彼からの提案が嬉しいわけで、「マスターがくれるものならなんでも!」と言ったのはその喜びが出たのだと思う。
なんとも漠然としたそれに沈黙が走り、驚きに目を丸くした彼がフッと息を漏らすように笑う。「なんでもか?」「なんでも!」そのやり取りは普段よりも緩いもので、彼は少しの考え込んだ後「それじゃあ、二人で飯でも行くか」そう言って、僅かに口角を吊り上げた。

難波
「お前よ、その……いま欲しいもんはねえのか」
クリスマスの単語も出さずに尋ねた言葉。あまりの唐突さに「え、うーん、歯ブラシかなぁ……」と言ったのは絶対に仕方のない事なのに、難波は酷く顔を顰める。「そうじゃねえよ、日用品とかじゃなくてよ、だから……その、クリスマスだ、クリスマスプレゼント。お前になにかやりたいんだけど、何か欲しいのねえのか」続けた言葉は不器用で、気恥ずかしいのか彼は顔を逸らして頭を掻く。その気持ちこそが嬉しいと彼は分かっていないのだ。「いらない」「え?」「…………何もいらない、悠さんがいるだけでそれでいいの」少しの静寂が包み込んだあとの願い。それは決して、揶揄いでも、お世辞でもなんでもない。それに驚く彼は顔に熱を集めていたが、また顔を顰めると「安い女だな、お前は」そう言って僅かに笑い「じゃあクリスマスは、美味い飯でも買い込んで二人でゆっくりするか」そう呟いた。