ターゲットを追い詰めるまであと一歩のところでカクに手を引かれた。カクは「待て、傷が酷すぎる。一旦引くんじゃ」といったが私はそれを振り払って、いまだ此方に気付いていないターゲットへと距離を詰めようと足を踏み出すと、その瞬間、彼は私の二の腕を強く掴み、そのまま私の体を半ば強制的におんぶしては拠点のある方角へと走った。遠ざかるターゲットの影、遠ざかるターゲット拠点。追い詰めるまであともう一歩のところだったのに!
「なんで止めるのよ!私はまだ動ける!!」
「感謝されど、責められる筋合いはないわい!」
「はぁぁ?!」
こちらが声を荒げると、さらに声を荒げながら返された言葉にこちらもカチンときて負けじと声を上げた。しかしそれでカクが私を離す事はなくそのまま拠点へと戻ると、迷わず自分の部屋へと入り、私の体をベッドの上へと放り投げた。エニエスロビーの自室ならばともかく、短期任務で用意された拠点のベッドは質が悪く、放り投げられた体は受け身もとれずに固いマットレスに体を打ち付けられ、痛みに小さく呻いた。
「い……っ、た、ぁ………」
途端に背中の痛みで強張る全身。まるで忘れていた痛みを思い出したように背骨から全身にかけてずきずきと痛みが響いて、思うように体が動かせない。
「………その程度で呻くほど弱ってるのに、まだ動けると?」
痛みに呻く間に距離を詰めていたらしいカクがベットに手をついてぎしりを音を軋ませたかと思うと、痛みに呻く私の首を掴んでそのままマットレスに押さえつけた。
「……ッう…あ…ッカク……ッや、め……ッ」
「本気で言っとるのか?」
馬鹿じゃのう。と表情のない音が私に落ちて、首を掴む指先にぐっと力を入れられて強い圧迫感に眉間に皺を寄せたがカクはそれを見ても力を緩めることはなく、じわじわと蝕むように力を込めていく。これはまるで躾のそれだ。普段の優しさなんて欠片も見せずに感情のない瞳を此方に向けたが、呼吸の出来ない私は表情を歪めて、みっともなく首を絞める彼の指を掴んで引き剥がそうとすることしか出来ずに、はくはくと口を開いた私は、「ごめ…ッ…ん、も、しない…ッから」と途切れ途切れに彼に許しを乞う。
カクは私の言葉を聞いたのち楽しむように首を絞める指先に力をかけたが、ようやく彼は手を離して、恐ろしいことに「あぁ、分かればいいんじゃ」といつもの優しい笑みを向けた。
それが酷く恐ろしくて私はげほげほと咳ごみながらも瞳に溜まった涙を零せば、彼は優しく背中を摩ってから私の目尻に口づけをすると、どこかうっとりと悦に浸るような表情を向けて「全く、〇〇はわしがおらんと本当にダメなんじゃのう…?」と言葉を紡いで目を細めた。