日常の一コマ

「まーだ終わっとらんのか。」

 一緒に夕飯を食べようと約束をして早二時間、私はまだスパンダム司令長官から課された書類作りに勤しんでいた。カクも暫くは暇つぶしがてらにと任務の詳細が記載された資料に目を通していたようだが、一時間を超えたあたりで飽きてしまったらしい。資料の束を手に「わしお腹すいた」とかなんとかいいながら、書類作りに勤しむ私の頭に腕を乗せて体重を預けるように凭れかかってきた。

「ううっ、終わりたくても終われないんだよ……。一応…あとはこの書類だけなんだけど…でももう少しかかるから先に食べにいっちゃっていいよ。一緒に食べるのはまた明日とかにしよ」

 一緒に食べたいのは山々だが、なんせ書類の提出後にはあの厳しい長官チェックが待っている。先日長官に資料作りのコツなんかを講義形式で学んじゃったものだから、変に手を抜いたものなんて提出出来ないし、私もまた出来れば彼に成長したところを見せて、一発クリアをしたい。しかし、それにはまだ少し時間がかかりそうなので、彼に向けて明日にしようと提案を向けたのだが、見上げた彼はむうっと子供みたいに口をへの字にすると、「約束したのにのー。」と零す。
 まぁ、私が申し訳なさそうにしていると、すぐに「わはは嘘じゃ。どうせあと少しじゃろう、待っとるよ」とそう穏やかに言いながら体を離して、隣の椅子へと腰を下ろすのだが。

「カクって優しいねぇ」
「いやぁ、出来の悪い妹を持つと大変じゃの~」
「で、出来の悪いだと…?!くそ、人が褒めてあげたというのに…!」
「この間、あの長官に随分と駄目だしを食らったと聞いたぞ」
「う、でもそのお陰でほら、結構上手になったと思うんだけど。…あ、ついでにチェックお願いしまーす」
「ちゃっかりとわしに仕事を振るんじゃない」

 そうぶつくさ言いながらも、差し出した資料を受け取ってくれるあたり、彼は良い奴だ。

 取り合えず、私ももう少し頑張らないと。と袖を肘あたりまで捲れば、もう一度目の前に並べた資料へと視線を落としてペンを走らせる。そうして彼の催促からもう30分経った頃に資料は完成し、さらにその10分後にはスパンダム司令長官のチェックも済んで本日の業務は終了となったのだが、その頃には疲労が限界間近にきており、指令長官の部屋を出た瞬間、疲労を少しでも外に吐き出すようなやたらと大きなため息が落ちる。

「………つ、かれたぁ……」

 カクのダブルチェックがなければもう少し長くかかっていたかもしれない。
 確かカクは先に食堂に行くと言っていたし、私も早いところ合流しなければ。腹の虫はぐうぐう、ぎゅるぎゅるとせっつくように大きく声を上げるが、それにしたって体が重い。もう一度大きく息を吐きだして、ついでにこの疲労を彼に見せて心配をかけぬようぺちぺちと頬を叩いて気を引き締めてから待たせている彼の元へと向かおうと踵を返した。―――のだが、早々に何かとぶつかって体が大きくのけ反った。

「わ、ぷ」
「……おっと、すまん。驚かせてやろうと思ったんじゃが気付かんとは思わなんだ。」
「…なんだカクかぁ。…ってあれ、食堂に行ったんじゃないの?」

 何かにぶつかったと思ったら、カクだった。彼は私が気付かなかったことに少し驚いたように、くりくりとした目を瞬かせていたが、こちらが問いかけを返すと「うん?…あぁ、まぁ、行ったことには行ったが、人も多かったしお前もくたくたのようじゃったからのう、部屋で食べられるよう持ってきたんじゃ」と恐らくは持ち帰り用の食料が入っている袋を掲げるので、私は司令長官室の前だというのに「カ、カク~~~!」と声を上げた。腹の虫もギュギュウ~~とふざけた音を響かせていたと思う。

「わはは、現金な奴じゃのう。ほれ、半分持ってくれ。」
「持ちますとも、持ちますとも…!いえ、持たせていただきます!」
「くく、本当に腹が減っておったんじゃのう……。」
「そりゃあもう、私お昼抜きだもん」
「そりゃいかん。早く部屋に戻って食べるぞ」

 そういって私たちは横並びで歩く。歩くたびに揺れる袋からは、矢鱈と良い匂いが漂ってきてお腹の催促は酷くなるばかりだったけれど、つまみ食いは我慢して、彼と一緒に食べようと思う。