子猫に懐かれて

 ホームレス村は、行き場を失った者たちや、崩れた生活が流れ着くゴミ捨て場のような場所だった。
 その日辿り着いたのは、一家離散して孤独の身になった者でもなく、はたまた後ろ暗い経歴を持ったお尋ね者でもない一匹の猫であった。元猫飼い曰く生後三か月ほど。恐らく親猫に捨てられたかはぐれてしまったのだろう。魚を焼く匂いにつられてやってきたソイツはミイミイ鳴いて、いつのまにか膝の上で眠るほど懐いていた。

「……へぇー……可愛い猫だね」

 猫に釣られてやってきた××が言う。女ひとりがこんなゴミ捨て場に来るもんじゃねえと日頃から口酸っぱく言っているつもりだが、どうやらその声かけも猫の存在が無効にしてしまうらしい。眠る猫を指先で撫でる××は普段よりも穏やかに笑い、鈴を転がすような声で尋ねる。

「この子、難波が飼うの?」
「まさか、俺みたいなその日暮らしが飼えるかよ」
「飼えないの?」
「そりゃあそうだろ、生き物なんてホイホイ飼うもんじゃねえ」

 病気になったところで病院に連れていく金は無いし、その日食べるものにも困っているくらいだ。その状況で飼ったとしてもこの猫が不幸せになるだけ。難波は揺らぎもせずに答えると××はフウンと鼻を鳴らしたあと「じゃあ、私が飼ってもいい?」ともう一つ尋ねた。

「ああ?」
「私が飼ったら難波だって安心じゃない?いつだって様子を見に来る事だって出来るし」
「いつだってってこたァねぇだろ」
「まぁそうだけど、それでもこのままフラフラ野良にするよりかは安心だと思うけど」
「それにしても、別に俺に聞くことじゃねえよ」

 おれはこいつに何もしてやれてねぇのに。頭を撫でる手は薄汚く、グローブから伸びるほつれた糸が情けなく映る。……ただ、それでも目を覚ましたあとにへたくそな伸びをして一番に見るのは俺で、小さな頭を摺り寄せるのも俺だった。だから、なんとなく感じるそれは間違いなく寂しさという奴だろう。此方を見上げる猫が、目を細めながらミャアと鳴く。

「……」

 確かに適当な奴に任せたり、このまま野良猫生活をさせてやるよりも彼女に任せたほうが、ずっと安心できるか。
 難波は暫く頭を摺り寄せる猫を見ていた。××は少々抜けている事はあるが、生活基盤は安定しているし、これからはきっと衣食住揃って生活も快適になる筈。ちらりと見た彼女の瞳は穏やかで、細い指が猫の額を撫でる様子に「自分で飼い主を見つけるたぁ、やるじゃねえか。うらやましい限りだぜ」「三食付きだぜ、きっと」「こいつの事だから猫缶だって買うし、甘えりゃ玩具だって買ってくれる筈だ」そう猫に声を掛けると、××は肩を揺らして笑った。

「……フフ、じゃあ難波もうちに来る?三食付きで、甘えてくれたら玩具買ってあげるよ」
「っ馬鹿なこといってんじゃねえよ」
「あら、残念」