難波ァ!ホットケーキ作って!
そんなことを言いながら叩きつけられたホットケーキミックス。箱が潰れるほどの勢いに呆れるしか術の無い難波は「やだね」と早々に断るが今日の彼女は妙に鬱陶しい。無遠慮に迫るし、ねえねえなんでとしつこいし。男に振られたのか、仕事が上手くいかなかったのかは分からないが兎に角しつこくて仕方が無いが、普段はサッパリとした性格の彼女がここまで荒れているのも珍しい。
難波は深く息を吐き出して箱を持ち上げて、作り方を見ながら箱を開いた。
ふわふわホットケーキの作り方。まずは卵と牛乳をよく混ぜて、その中にホットケーキミックスを入れる。このホットケーキミックスというのはベーキングパウダーやらが既に入っている状態のもので、ガシガシとかき混ぜるのではなく大きくさっくりと混ぜていく。……このさっくりと混ぜていく作業というのはホットケーキを作るときには大事にポイントのようで、ガシガシと混ぜすぎると膨らみが悪くぺちゃんこになってしまうのだとか。
次に、火にかけて熱したフライパンを、一度濡れ布巾で均等に熱を冷ます。それからもう一度火にかけてタネをおたまで掬い、「タネの流し入れ方、高すぎない?」と言われるくらいには高めにあげて流し込むのもちょっとしたコツという奴だ。
濡れ布巾で冷やすのは表面に気泡を入れず綺麗に焼き目がつくように。それからタネを上から流しいれるのもムラ防止で、丁寧に焼いたホットケーキは喫茶店で出されるものと大差がないほどの良い出来栄えだったように思う。
「どうだ、特製ホットケーキ。……中々うまいもんだろ」
ムラもなく、ふんわりと綺麗に焼けたきつね色のホットケーキ。確かに、この出来は駅前の喫茶店のものと大差ない出来栄えだが……これも看護師として人の命を扱っていた生真面目さと丁寧さを持っていた難波のなせる業か。
得意げに笑う彼の笑みが、なんだか眩しい。
「……難波の新しい特技でしょ、これ」
「いまいち得意げに言えねえなぁ」
「趙やハン君あたりは興味持ちそうだけどね」
他愛のない談笑。これから片付けまで行うのかと思うと、やっぱり料理なんてするもんじゃねえと難波は思うが、目の前で表情を綻ばせて食事を楽しむ彼女を見ていると悪くないと思う。それに気付いたとき、途端に腹がこそばゆくなったけれども、それをいま言う事はなく「兎に角、これでちったあ元気出せよ。じゃなきゃ作った意味がねえ」と言いながら肩を竦めた。